これもベストレース
【スパーク ザウバーC29 小林可夢偉 ヨーロッパGP 2010】
小林可夢偉のF1でのベストレースを選ぶならやはり3位の2012年日本GPで、デビューイヤーの2010年に限っても日本GPが挙がると思います。でももう一つ選べるのなら、間違いなくこのレースでしょう。
2010年シーズン中盤、ザウバーは体制が安定しようやく戦えるようになってきたものの、スペイン・バレンシアで行われたこのヨーロッパGPでは他の中堅チームが大型アップデートを持ち込み再び窮地になりました。可夢偉選手は予選18位とこの年参入した新規3チームを除く既存チームの中では最下位のグリッドスタートとなります。
決勝レースではハード側のプライムタイヤでスタートし、かの有名なレッドブル・ウェバーの宙を舞うクラッシュで出たSCでもステイアウトして長らくコースに留まり続けました。ここで暫定的に3位まで浮上するとタイヤを交換したマクラーレンのバトンを長らく抑え込みます。そしてラスト4周のところで満を持してピットインしソフトタイヤを履くと、ここから怒涛の追い上げを見せました。
モノコックのバーガーキングの追加ロゴが目立つヨーロッパGP仕様のC29。そのスポンサーイベントでは両ドライバーがハンバーガーを焼いていましたが、日に日に高まる彼の評価に「小林可夢偉にこんなことさせてちゃだめじゃない?」というメディアの声が出てきたのが非常に嬉しかった当時の思い出があります。シーズン半ばにして、既に彼の評価は新人ドライバーとしては確たるものになっていたと思うんですよね。
残り3周からファイナルラップまで入念にタイヤを温め期を伺った可夢偉選手。チェッカーまで残り数コーナーのところでフェラーリのアロンソを追い抜きます。更に最終コーナーでトロロッソのブエミを仕留め、7位入賞でレースを締めくくり見事にリバースストラテジーを完遂しました。特にブエミを抜く場面は中継に映らず、残りのコーナー数を見てもさすがに無理だろうと諦めかけていた最中、堂々と最終コーナーで前に立って帰ってきたザウバーの姿は本当に感動ものでした。
タイヤには優位性がありギャップもほぼなくこの2台を抜くチャンスは十分にあってもなお「日本人ドライバーはこうしたチャンスを掴み切れないだろうな」という不安が正直あったのですが、その不安は見事に裏切られました。デビュー2戦目で1ストップを決め初入賞のアブダビGP、ハードで50周近く走って掴んだザウバー初入賞のトルコGP、そしてこの作戦でつかみ取ったヨーロッパGPと、この時点でわずか3度の入賞にしてそのどれもが技の光るもので、特別な日本人ドライバーが出てきたなと感動したものです。本当にこの時期は毎レース期待しかなかったなぁ……。
このレース一番のインパクトを引き起こしたウェバー。ポジションを落としていたとはいえあれほどギリギリまで周回遅れのスリップを使う理由はなかった気がしますがこれが半年後にタイトル争いの決め手になるとはこの時点では誰も思わず、当時はただただ派手なオンボード映像に皆感嘆していたのでした。
コメント