フェラーリ 312T4 G.ヴィルヌーブ オランダGP

フェラーリ1979

伝説の三輪走行

【ブルム フェラーリ312T4 G.ヴィルヌーブ オランダGP 1979】

フル参戦2年目、好成績を残して名実ともにトップドライバーに上り詰めたこの年のジル。しかし彼は勝利やタイトルのための安定した走りは好まず、常に前を目指す攻撃性を突き通します。

好調だった1979年の第12戦、ザントフォールトで行われたオランダGPではいつものように上位を伺うジルでしたが、1コーナーでリアタイアのバーストからスピン、グラベルに捕まります。並のドライバーならここでレースを諦めていたところですが、彼にリタイアという選択肢はなくコースに復帰してピットへと戻ります。

この際パンクしたタイヤがホイールに引っ掛かった状態で走るにはジルは高速すぎたため、結果的にピットに戻る前にホイールを破損。前を急ぐジルならではの結果だったかもしれません。その後三輪状態でもマシンを止めず、ピットまで戻ったジルはリタイアします。結果だけ見れば何てことないものですが、その走り続けた姿に彼の意思が垣間見えます。

多くの若くて速いドライバーがそうであったように、ジルもまた目先の成績にだけ囚われるかのような、アグレッシブな走りが続きました。チャンピオンになるドライバーがそれを捨て安定性を求めていくのに対し、ジルはタイトルに手が届いてもなおその姿勢を変えません。そんなジルの走りの象徴の一つとして、このオランダGPでの一件は挙げられますね。

ミニチャンプスがセナのマシンを細かくリリースするように、イタリアのメーカーブルムもまたジルをここまでかというほど細かくモデル化しています。このオランダGP仕様も、写真のタイヤがパンクした状態に加えてホイールが完全に折れて三輪状態となったモデルもリリースされています。

この年、ベテランのシェクターと組んでタイトル争いを経験したジル。王座に必要な安定性、チームへの献身性など、これまでの彼には見られなかったものが垣間見えるシーズンです。一方で、このオランダGPのように常に前を向く攻撃性は健在しています。後に彼が本格的にタイトルを争うことになったらそれを捨て保守的な走りをしたのか、それは永遠の謎ですが、そうなっていればこのGPもただの記録の一つだったでしょう。一つのリタイアでしかないこのGPが神格化されるのは、それを変えないまま散った彼の姿勢が顕著に表れたシーンだからなのでしょうね。

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