才能を証明
【ミニチャンプス トヨタTF109 小林可夢偉 アブダビGP 2009】
キャリアの中でもベストレースの一つに数えられるこの年のアブダビGP。初開催の地でただ一人だけ1ストップを成功させ、前戦ブラジルGPで見せた才能の片鱗が本物であることを証明しました。
初開催のアブダビGPで12番手グリッドからのスタートとなった可夢偉選手。スタート直後にペースの遅いフェラーリ・ライコネンの追い抜きを早々に成功したことで1ストップ作戦遂行に必要なレースペースでの走行が可能になりました。レース中盤、先にストップを終えたバトンが順位を落とすと前戦に続いて再びチャンピオンとのバトルを繰り広げ、そのブラジルGPとは逆に今回は可夢偉選手がバトンをオーバーテイク。このバトルは2009年シーズンのベストオーバーテイクと評される1シーンとなります。
その可夢偉選手に抜かれたバトン陣営では「表彰台のためには可夢偉に対してペースを上げなければいけない」と無線が飛ぶほど、彼はこのレースで上位争いのキーマンとなりました。中盤では3位を走行しデビュー2戦目ながら表彰台争いの注目株として国際映像にこれでもかと映し出されます。給油があった時代に1ストップで他車より燃料を積んだ重いマシンでありながら素晴らしいペースを連発していて、当時のフジテレビの実況解説陣も大絶賛していた記憶がありますね。本当に来年への希望しかなかった、夢のようなレースでした……。
とはいえまだデビュー2戦目の新人ということもあり、作戦の異なるルノー・アロンソの処理を誤ってペースを落とすなどわずかなミスもありました。それでも、並大抵の新人ドライバーではないことは明らかだったと思います。最後はチームメイトでトヨタの大黒柱・トゥルーリをも上回る6位で完走し、表彰台まであと10秒というところまで迫る気迫のレースを見せてくれました。本当に、とんでもないドライバーが出てきたなと思ったものです。私はこれが日本人じゃなかったとしても大ファンになっていたと思います。
チームスタッフや首脳陣からの絶賛はもちろん、ライバルチームからも瞬く間に一目置かれる存在となった可夢偉選手。この年のチャンピオンチームが2戦目の新人を意識して表彰台争いをするのですから、世間の注目は高まるばかりでした。この大活躍で彼は翌2010年のトヨタF1チームの正ドライバーに当確となり、優勝まであと一歩に迫ったこの年のTF109を改良した新車、TF110で悲願の優勝を目指すはずでした。
しかし、このアブダビGPのわずか3日後にリーマンショックの煽りを受けてトヨタF1チームは撤退を表明し、奮戦虚しく一瞬で彼はシートを失ってしまいます。本人は後に「2010年にトヨタで優勝できたはず」だとコメントしていて、日本人ドライバー優勝への期待が最も高かった時期だけにとても、とても残念な出来事でした。ただ、撤退会見でチームの後ろ盾なくF1に取り残すことになった育成ドライバーたちを思って涙されたトヨタF1山科代表の姿を見ると、外野は何も言えないんですよね……。
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