ヴァージン VR-01 T.グロック

マノー・マルシャ2010

時代を先取りしすぎた一台

【スパーク ヴァージンVR-01 T.グロック 2010】

ブラウンGPと契約した初のスポンサーとして2009年に名を知らしめたヴァージングループが2010年からチームとして参戦。予算制限を見越した低コストパッケージというF1の謳い文句に乗り、高価な風洞を使用しない設計で挑みました。

この「VR-01」はF1史上初の特殊な設計方針「風洞を使用せず、コンピュータの計算だけで設計する」という試みで生み出されたマシンです。この方針はコスト削減には大成功だったものの、競争力の観点では大失敗で2010年のテールエンダーの一角となります。

シェイクダウンでは強度不足からフロントウイングが脱落し、開幕戦では燃料タンクの設計不良で完走に必要な燃料を搭載できないという不具合が発覚するなど、斬新な設計方針は「F1マシンを模したなにか」が生まれただけに終わりました。

序盤は深刻な信頼性不足で完走することが目的だったこのチームですが、徐々に問題を解決していくとエースのグロックはライバルのロータスと競う場面が増えます。

それでも既存チームとの差は大きくポイント獲得など不可能と思われましたが、韓国GPでは荒れた展開で一時10位を走行しました。後続のブエミに追突されリタイアに終わりましたが、後の入賞の可能性を感じさせた瞬間でしたね。同期のロータス・HRTにそのような場面は一度もなく、これが後にこのチームが入賞できたきっかけだったのかなと思います。

散々な出来だった「VR-01」ですが、カラーリングだけはこの年のマシンの中でも上位の、格別のかっこよさだと思います。この派手な感じがいいですよね。

ヴァージンは初年度の低迷を受け翌年限りであっさりF1から撤退、以降フォーミュラEへと移行しました。あの開幕前のブラウンGPと先見の明でスポンサー契約を結んだだけあって、チームがすぐに成功しないとわかると引き際もお見事でしたね。以降はロシア資本でチームが継続されますが、この華々しいデザインも共に去り地味なカラーリングばかりになってしまいます。

コンピュータ設計のみでF1に挑んだこの取り組みが評価されるにはもう25年ほど必要かもしれません。近年情報技術が著しく発展してもなお、F1は風洞と実走行による開発に頼っています。最近はシミュレータと走行データの相関に力を入れているので、うまくいけばいずれ「風洞試験ゼロ」の日がくるかもしれませんね。その時に思い出されるのは間違いなくこのマシンでしょう。

派手なカラーリングとその特異な設計思想を持つ「VR-01」ですが、オークションなどでも高い価格を維持しておりその人気の高さが伺えます。タイムカプセルのようなマシンですね。

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